【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 などと、そこまでの流れがあって、ようやくと再会される本題。
 そのまま岸姉が指揮を執って、話し合いが進められる。

「大方の話はいっていると思うけど、今度の日曜のことよ。内容は――」

 きゅぽんと音を立ててペンのキャップを外し、すらすらとその概要を綴っていく。
 簡潔な内容かつ綺麗な字は読みやすく、内容がすんなり頭に入って来る。

「こんな感じかしら。詳しい時間帯はこれから決めるとして、妹ちゃんの希望である通潤橋付近にも行ってその日は野宿。翌日の月曜は祝日だから問題ないわ。私たちは私たちで、サークル活動である星見をする、と。間違いは?」

「ありませんね。流石に纏めが上手だ、姉ちゃん先輩」

「初顔合わせの人たちの前でその呼び方はよして頂戴。まったく、あれほど乙葉”様”と呼びなさいって言っているのに」

「鏡見てから言ってください。女王様って面じゃないでしょうが。っと、マコトも葵も、それでいいな?」

 振り返りざまに尋ねられ、僕らはそれぞれ「はい」「うん」と頷く。
 新幹線、バス、電車と乗り継ぎ乗り継ぎ、九州自動車道御船インターから更にバスで一時間強かけて井無田高原キャンプ場へと向かい、テントを張って小休止。そこから片道二時間、徒歩にて通潤橋を目指す。

 改めて図示されるととんでもなく手間と暇のかかる計画だけれど、葵は一切の間を置かず「分かった」の一言。それほど、通潤橋という場所に――祖父に思い入れがあるのだろう。
 他界してから一年だと言っていたが、遥さんが言っていた「長年」という言葉、葵たちがずっと探し求めていたのであろうことが伺える。

「集合はどこに何時にしようかしら?」

「分かり易いから、とりあえず場所は駅でいいんじゃない? 時間は――」

「橋、日中には辿り着きたい。じゃないと意味ないから」

「なら、朝の九時辺りかな。キャンプ道具一式は私らが持っていくから。おいっしい料理もお楽しみに!」

「琴葉の料理はちょっとしたものよ。私の舌が保証するわ」

「料理音痴の舌はあてになりませんよ」

「五月蠅いわよハル」

「そうだよ、ちょっと人より僅かに微々たる差でへたっぴなだけだよ!」

「足りない分の具材は琴葉にしようかしら」

「それはあんまりだよ…!」

 指を合わせてぶつぶつ言いながら葵に擦り寄る妹を放って、姉は手早くメモを残す。
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