【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「この頃はまだ発症してちょっとだったから、話せてた。療養してろって心配する母親に無理を言ったのも、近い将来で会えなくなることが分かってたからなんだって」
「出来るだけ葵たちと思い出を作ろうって……そう思ってたのかな…?」
「本人に確認は出来ないから分からないけど、多分そう。自分より他人って人だったから」
と、そこで今までの半分くらいの量で一口。
少し噛んで喉に送って、
「早く、日曜にならないかな」
とても切なそうに呟いた。
僕は、ただ寿命で逝ってしまったのだと思っていた。亡くなった祖父との思い出を辿る、簡単な仕事なのだと。
どこかで、楽観視していた。
これまで葵が話さなかったというのもあるが、それを無しにしても、誰かの思い出に触れるような仕事なのだ。
簡単な筈、あるわけない。
僕は随分と馬鹿だったようだ。
こんな事情を知っていれば、いや聞いていれば、あるいはもっとちゃんと真剣に、何かしようと策を労した筈だ。
たられば、なんていくらでも言える。けれど、納得できない。
葵にとってこれは、それほど重い意味があるのだから。
「――ごめん」
「出来るだけ葵たちと思い出を作ろうって……そう思ってたのかな…?」
「本人に確認は出来ないから分からないけど、多分そう。自分より他人って人だったから」
と、そこで今までの半分くらいの量で一口。
少し噛んで喉に送って、
「早く、日曜にならないかな」
とても切なそうに呟いた。
僕は、ただ寿命で逝ってしまったのだと思っていた。亡くなった祖父との思い出を辿る、簡単な仕事なのだと。
どこかで、楽観視していた。
これまで葵が話さなかったというのもあるが、それを無しにしても、誰かの思い出に触れるような仕事なのだ。
簡単な筈、あるわけない。
僕は随分と馬鹿だったようだ。
こんな事情を知っていれば、いや聞いていれば、あるいはもっとちゃんと真剣に、何かしようと策を労した筈だ。
たられば、なんていくらでも言える。けれど、納得できない。
葵にとってこれは、それほど重い意味があるのだから。
「――ごめん」