【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 おじいちゃん、か。

 想像も妄想も自由である夢の中にあっても、葵はそれほど強く、再会を望んでいるのだな。
 自分の身体に鞭を打ってまで思い出を残そうとしてくれた、大切な祖父との再会を。
 ちょっとした覚悟と思い入れが感じられて、僕は最後に頭をひと撫で。もし起きていたら、ただの罵声では済まされないだろうな。

 しかし、ショートパンツで足を折るとは不用心もいいところだ。タイツは履いていないから生足だし。

 これはもうマイペースではなく無頓着。
 悪いやつに襲われても知らないぞ、なんて言いながら、ブランケットを被せて風邪の予防に努めてやった。
 手を離したところで、一応置いておくと用意してくれた小さい机に置いていたスマホが、着信を知らせるバイブ音を鳴らした。

 開けると、差出人は桐島さんだった。

「そういや、ずっとこいつにかかりっきりで……店の方のバイトはいいのかな」

 今になって、記憶堂のアルバイトだという立場とともに、これが現在の仕事であることを再認識。
 本文の方に目を移す。
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