【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
『夜分遅くに失礼いたします。こんばんは。こちらは、日曜予定でした別件が本日中に片付いてしまって、明日は暇になりそうです。葵さんは元気にしておられますか?』

 業務連絡ではなく、ただの世間話とは。
 桐島さんがメッセージを寄越すのは、決まってお堅い業務連絡的文面ばかり。
 スクロールして履歴を表示してみれば――うん、どこどこに、といった内容のものしかない。

『こんばんは。夜は少し冷えますね。明日一日、とは……ごゆっくりされてはどうですか?』

 と返信。
 すぐにそれに対する返事が返って来た。

『それもそうなのですけれど、家にいると結局いつも通りになりそうな気がするのと、外で特別何をする気も起きないと言いますか……』

 ならなぜメッセージを送って来た。
 とは聞けず、それはまた困りましたね、と無難な返事。
 すると返ってきたのは、明日こちらに合流するといった旨のメッセージだ。

『えっと、そういえば話していなかったのですが、こちらにはとある家の親御さんが……明日も、その人たちに送ってもらう予定で』

『あら、そうだったのですか。ところで、そのご家庭というのは?』

『えっと、双子姉妹の娘さんがおられる、岸という苗字です』

 と送ってみれば。

『あ、なら大丈夫そうです。そのおうちには少々縁がありますから。神前さんの方から、合流する旨だけお伝えください。現地で落ち合う形なら迷惑にはならない筈ですから』

『え? はぁ、了解です』

『では、頼みますね。あ、あと、簡単な予定だけ教えて頂けたら助かります。私は自分の車で参りますので。キャンピングに八人は乗れませんからね』

 と。
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