【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 熊本まで、車では十二時間程かかるらしい。
 それを見越して深夜帯に起床。努力を惜しまないというのは、文字通りの意味だったようだ。続けでそこまでの長時間運転させてしまうのは、何だか今更ながら申し訳ない。

 僕たちには車内で寝れば良いと言ってくれたが、なら貴方はどうするのかと問うや、紗織さんも運転が出来るから、いざとなれば交代して仮眠を取れば良いとのこと。

 合宿免許取得を既に済ませているから僕も運転は出来るのだけれど、ゆっくり休んでくれていいとの二人からの厚意。
 ありがとうございますと共に、すいません。
 そんな中、葵の第一声は「お風呂忘れてた」だった。
 忘れたというか、それすらお構いなしに眠っていたというか。

 ともあれ、まだ少し時間はあるからと紗織さんの厚意で夜遅くシャワーを借りることに。
 これで全員、一応身体の汚れは落とせたということだ。

「――っと、こんなものか。余ってる荷物はあるかい?」

「なーい」

「ないわ」

 と、口々にそれぞれの持ち物が積まれていることを確認し、返事。
 それを受けて誠二さんが頷くと、車内へ。
 時刻は午前二時。

 いよいよ、本来の目的に向けての出発だ。
 カーナビは取り付けていないという話なので、せめてアプリのナビで役に立とう。

 当初はそう意気込んでいた僕も、ものの一時間で夢の中へと旅立っていた。
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