【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 思い出話の後はプチトランプ大会。
 何種目かした内でビリだったものが諸々の手伝いを、といったルールの中、

「ざ、惨敗……」

 見事その座に輝いたのは、つい先ほどまでほかほかとした気持ちで臨んでいた琴葉さんだ。
 驚くべきは、ババ抜き、神経衰弱、七並べに大貧民と行った四種目を、例外なくビリであった琴葉さんの弱さ、対して全てをトップで勝ち抜いた葵の強さだった。
 運要素の絡むゲームもあったというのに、この結果とは。

 僕はというと、乙葉さん遥さんと共に二位から四位を行ったり来たり。言ってみれば、平均値を常に保って勝利した。

「ここまでコテンパンだと、我が半身ながら流石に同情しちゃうわね」

「憐れまないであげてください。下手な同情は傷を抉るものです」

「姉ちゃん先輩、流石にこれは可哀そうな感じだ…」

「その発言が既に…!」

 といったやり取りを経て、琴葉さんの雑用係が決定した。
 無駄にテンションを上げてはしゃいでしまった所為か、今度は僕を除く四人が「少し眠る」とそれぞれ散らばった。占領気味になっていた椅子には葵が、ソファでは姉妹仲良く肩を寄せ合い、遥さんは先のベッドで夢の国へ。

 この人たち、黙っていれば高嶺の花な三人なのに。と失礼なことを考えて溜息を吐いて落ち着くと、ふと感じるのは当たり前のそれ。
 カーにも一応、備え付けのカセットトイレはあるのだけれど。そう思っていた矢先、窓の外に見つけたのは《別府湾サービスエリア:一km》の標識。

「すいません、あと一キロのSAに入ってもらえませんか?」

「トイレかい?」

「ええ、まあ。女の子も三人いますし、カー内のはちょっと…」

「あらあら、おばさんはもう歳かしら」

「――すいません、四人いるので」

 大学生二人の母を、流石に女の“子”と呼ぶのはどうなのだろう。
 笑う紗織さんに釣られて苦笑い。
 車はすぐに一キロの距離を詰め、別府湾サービスエリアへと到着した。

「別府サービス……」

 何だか耳に新しくない気がする。
 記憶堂でちらと見た『一度は行きたい熊本の名所』なる本の端に、そういえば同じ名前があった。

 宣伝文句は確か――

「パノラマが見える遊歩道…」
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