【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
ようやく辿り着いたそこは、文字通りの絶景だった。
ゲリラ的な豪雨もすっかり止んで、雲間には光も差し込んでいる。
数字では高さ約二十メートルだと書いてあったのを見ていたけれど、イメージではこれの半分くらいの大きさを想像していた。
遠目にも巨大だと分かる橋は、近付けども近付けども、寄っていっている心地がしない程、荘厳で重厚な体躯でもってそこに存在している。
葵は、橋が視界の端に入るや言葉を失って目を見開き、かと思えば肩にかけていた椅子を僕に放り投げて寄越して走っていき、今、
「おじいちゃん…」
写真と同じ辺りに立ち、その思い出に直面していた。
祖父の話になると途端に饒舌になっていた葵が、それを通り越して無言になった。
そこに立って目を閉じ、心で対話して、祖父と繋がっている。
幻想的とも思えるそんな光景に、僕はいつのまにか目を奪われていた。
しばらくそうしていると、葵はふと思い出したように「違う」と言った。
何が違うのか。
葵が立つ場所は、写真と同じ位置辺りのアングル。
が、その周囲――いや、この通潤橋という場所そのものに、写真で見たような二つの膨らみがないのだ。
それは桐島さんがはっきりと断言していたことだったけれど、葵本人はおろか、僕だって信じているようで信じられていなかったことだ。
桐島さんが嘘を言っているとは思っていない。それでも、きっとどこかに、よく探せばあるのではないかと、少しばかり期待をしていた。桐島さんが見落としているだけだって、信じたかった。
しかし、現実とはこれ無慈悲なもので。
実際にこの目で見ると、それは何よりはっきりとした証拠となって突き刺さる。
ゲリラ的な豪雨もすっかり止んで、雲間には光も差し込んでいる。
数字では高さ約二十メートルだと書いてあったのを見ていたけれど、イメージではこれの半分くらいの大きさを想像していた。
遠目にも巨大だと分かる橋は、近付けども近付けども、寄っていっている心地がしない程、荘厳で重厚な体躯でもってそこに存在している。
葵は、橋が視界の端に入るや言葉を失って目を見開き、かと思えば肩にかけていた椅子を僕に放り投げて寄越して走っていき、今、
「おじいちゃん…」
写真と同じ辺りに立ち、その思い出に直面していた。
祖父の話になると途端に饒舌になっていた葵が、それを通り越して無言になった。
そこに立って目を閉じ、心で対話して、祖父と繋がっている。
幻想的とも思えるそんな光景に、僕はいつのまにか目を奪われていた。
しばらくそうしていると、葵はふと思い出したように「違う」と言った。
何が違うのか。
葵が立つ場所は、写真と同じ位置辺りのアングル。
が、その周囲――いや、この通潤橋という場所そのものに、写真で見たような二つの膨らみがないのだ。
それは桐島さんがはっきりと断言していたことだったけれど、葵本人はおろか、僕だって信じているようで信じられていなかったことだ。
桐島さんが嘘を言っているとは思っていない。それでも、きっとどこかに、よく探せばあるのではないかと、少しばかり期待をしていた。桐島さんが見落としているだけだって、信じたかった。
しかし、現実とはこれ無慈悲なもので。
実際にこの目で見ると、それは何よりはっきりとした証拠となって突き刺さる。