【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「見つかった?」
そう声を上げたのは乙葉さん。
勿論何も成果は得られていないので首を横に。
桐島さんは、やっぱりといった、しかし複雑な表情をして溜息を吐いた。
六人を巻き込んで、宛てどなく走り回る。
奥へ、手前へ、遠くへ、近くへ。
念のためにと対岸に渡って、同じように奥や手前へ行ったり来たり。
何が正しいのか分からない、堂々巡り。
やはり、無駄だったのだろうか。
覚えていることが全て『絶対』である桐島さんが無いと言うというからには、本当にそれはなく、だとすれば葵が言ったように、ここに来た意味とは――
これでは本当に、手ぶらになってしまう。
「もう三十分が経ちます。神前さん」
「まだです…!」
僕は断った。
桐島さんがその後に、休憩しましょうと言い出すことは分かっていたから。
体力だとか、疲労だとか、そういう話ではないのだ。
「目が覚めてまたこれを見たら、葵は何も得られないままだ。また、何もないとって涙を流して、思い出に還れない……それだけは絶対に、ダメなんです…!」
「冷静になれば、妙案だって思いつくこともあります」
「それを何より否定しているのは貴女の記憶力です…!」
「いいえ。肯定しているのです。数値や図面には決して現れないもの。それが『心』というものです」
桐島さんは僕の進路上に立ちはだかった。
「いいですか、神前さん。仮にそれを、運よく君が見つけられたとします。その時、誰が喜びますか? 神前さんですか? ご両親ですか? 双子たちですか?」
「それは……僕は、葵のために…!」
「いいえ」
首を横に振った。
力強く、全否定。
そう声を上げたのは乙葉さん。
勿論何も成果は得られていないので首を横に。
桐島さんは、やっぱりといった、しかし複雑な表情をして溜息を吐いた。
六人を巻き込んで、宛てどなく走り回る。
奥へ、手前へ、遠くへ、近くへ。
念のためにと対岸に渡って、同じように奥や手前へ行ったり来たり。
何が正しいのか分からない、堂々巡り。
やはり、無駄だったのだろうか。
覚えていることが全て『絶対』である桐島さんが無いと言うというからには、本当にそれはなく、だとすれば葵が言ったように、ここに来た意味とは――
これでは本当に、手ぶらになってしまう。
「もう三十分が経ちます。神前さん」
「まだです…!」
僕は断った。
桐島さんがその後に、休憩しましょうと言い出すことは分かっていたから。
体力だとか、疲労だとか、そういう話ではないのだ。
「目が覚めてまたこれを見たら、葵は何も得られないままだ。また、何もないとって涙を流して、思い出に還れない……それだけは絶対に、ダメなんです…!」
「冷静になれば、妙案だって思いつくこともあります」
「それを何より否定しているのは貴女の記憶力です…!」
「いいえ。肯定しているのです。数値や図面には決して現れないもの。それが『心』というものです」
桐島さんは僕の進路上に立ちはだかった。
「いいですか、神前さん。仮にそれを、運よく君が見つけられたとします。その時、誰が喜びますか? 神前さんですか? ご両親ですか? 双子たちですか?」
「それは……僕は、葵のために…!」
「いいえ」
首を横に振った。
力強く、全否定。