【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 そして僕の肩に手をやると、諭すように、促すように、ゆっくりと、

「高宮篤郎は、高宮葵、ならびに高宮遥の祖父です。神前真の祖父ではありません」

「そんなことは――」

「ええ、分かっている筈です。ちょっと、混乱しているだけです。だから、どうか抑えて。私が「力になれず申し訳ない」と言った意味、もうお分かりでしょう?」

 それは、一週間前。
 場所を特定し、行くことは難しくないと伝えた後。

『お力になれず、申し訳ないです』

 そう、桐島さんは確かに言っていた。
 知らない。そこにはない。実在しない。
 そんな意味を込めた言葉だと、僕は思っていた。

 しかし、その実は――人の心に触れて良いのは、その人と関わりのある、思い出のある、確固たる繋がりのある者のみ。部外者の干渉は、返って対象を傷つける結果をも生みかねないということ。

 どこかで、分かっていた。

 葵の為にと思っていることは、本当は僕の自己満足でしかないということを。
 でも、そうでもしないと、葵は――せっかく遠い地まで足を運んで、はい無かったで終わらせていいわけがないのだ。

 それでは、とても浮かばれない。

「僕は――!」

「神前さん」

 桐島さんは遮るように呼んだ。
 僕が何を言うのか分かっていて、それを上書くように、

「今の君は――色々な色が混ざった、汚い色をしています」
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