【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 混色。

 桐島さんの言うそれは、ぐちゃぐちゃだということ。
 色覚を感じる目で見た、今の僕の内側だ。

 そうか。

 焦っていたのは、葵だけじゃなかったのか。
 焦る葵を見て、取り乱す葵を見て、僕にすがる葵を見て、一番焦っていたのは――

「別れた時の君は……少なくとも、濁ってはいなかった筈ですよ。葵ちゃんの為にって、強い意志の表れが視えていたからこそ、私は君を行かせたのですから」

 そうだ。僕は、葵の為に。
 思いは変わらない。
 変わっていたのは、心の在り方だけだった。

「桐島さん」

「はい」

 目が覚めた葵に、しっかりと現実を見せて。
 その上でもう一度、探そう。

「僕にも椅子をください。少し休んで、その後に」

「えぇ、分かっていますとも。遥さん」

「は、はい…! はいこれ、まこと」

「…ありがとうございます」

 遥さんが持っていたそれを受け取って開いて、葵からはやや離れたそこに設置して、一旦心を落ち着かせようと深く、深く座った。
 気持ちに反してそれは、意外にも効果的に心を落ち着かせてくれて。

 辺りを眺めていると、少し穏やかになった。
< 85 / 98 >

この作品をシェア

pagetop