【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
「前に言った、まことの思いやりが嬉しいっていうの、あれは本当の本当。兄貴の膝だって借りたことない。まことだから、まことだったから、今日おじいちゃんにも会えた」

「それは…いや違う、桐島さんがこの場所を――」

 こういうところなのだろう。 
 葵が嫌う、僕の弱さ。
 自分の働きの一切を自覚せず、周りの天才たちが成したことに無理やり繋げる愚行。

 しかし、だからといってそれが自分をプラスに評価できる素材ではなく。

「僕は……僕は、同情だとか思いやりだとか、そんなもので動いたんじゃない。気がする……何となく放っておけなかったから、ただ着いて来ただけだ」

 後でもう一度受けてやると言った告白も、本当なら受け取れる立場にない。
 桐島さんが透明だと言った内面も、本当ならもっと違う色の筈だ。

 自身が持てないわけではない。
 自身を持てる素材すらないのだ。

 プラスされない点数には、同点かマイナスしかない。

「それは――」

 それさえも葵は、

「とっても素敵なことだよ」

 と。
< 91 / 98 >

この作品をシェア

pagetop