【完】桐島藍子の記憶探訪 Act1.春
 やがて泣き止むと、今度は僕の横へと席を移動した。
 そうして改めて、

「マジで助かった。ありがとな、まこと」

 深々と頭を下げて礼を言って、いつかのように手を取ると、更に強い力でぶんぶんと振ってみせた。

「いえ…葵の願い、叶って良かったです」

「ほんっとにな…! それもこれも、葵が相談に行ったあの日、お前が葵と知り合ってくれたからだ。葵が写真の真実に触れられたのも、あの時店主さんの言葉を逃れられたのも、全部全部お前がいたからだ。ほんと、ありがとうな」

「そこまで大袈裟な話では…」

 遥さんは正直者だ。きっと、これも本心から来るものなのだろうけれど。
 どうにも、むず痒くてならない。

「本当ならな――」

 ふと、遥さんが声音を変えて言った。
 僕は「はい?」と聞き返す。

「本当なら、去年の誕生日も、祝える筈だったんだよ。けど、入院が長引いちまって、病院では派手に出来ないから、それも叶わなくてな…」

「……そうだったんですね」

「ああ。葵はきっと、さっきの橋でじいちゃんに『誕生日おめでとう』とも言ってたんだと思う。俺も負けてはいないつもりだが、負けを認めちまうくらいに、じいちゃんに対しての愛情が深かったからな。絶対にこの日――十四日じゃなきゃ嫌だって、言って聞かなかった。だからほんと、今日のことは良かった…お前が葵の前に立ってくれたから、叶ったんだよ」

「それは買い被り過ぎですよ」

 そう、口では言ったけれど。
 葵の言葉を思い出すと、自然と飲み込むことは出来た。
 行きと同じく十二時間、途中交代で仮眠を取りあう誠二さんと紗織さんの運転で無事帰宅。

 自身の車でやってきていた桐島さんは、道中ずっと後ろに着いたままだった。
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