諦めて結婚いたしましょう~一途な御曹司の抑えられない独占欲~
私の一部
市街地からそう離れていないこの道路には、夜でも多くの車が行き交っていた。地下鉄の列車、車が轟々と過ぎていく音、人々の話す声。都会の騒音が、ひとつに混じり合っていた。
私は乱れた呼吸を整えながら歩道のギリギリに立つ。
何台も連なって走るタクシーを見つけて手を上げた。
「どこまでですか?」
タクシーに乗り込むと、行き先を尋ねる運転手に、私はスマートフォンのメモに入れていた理人さんのマンションの住所を伝えた。
一度も行ったことはないけれど、なにかのときのために住所だけは聞いておいてよかった。
私は窓ガラスに頭をつけ、次々と後方に流れていく景色を眺める。うつろに輝く街のきらめきを目にしていると、無性に切なくなって泣きたくなった。