嘘恋のち真実愛
仕事終わりの一杯は美味しい。ゴクゴクと半分ほど飲むと、また注いでくれた。興奮していた私が穏やかになったのを確認してから、征巳さんは訊く。


「で、鈴川がどうした? あまり他の男の話はしてほしくないけど」

「他の男って……鈴川くんは私の後輩で、征巳さんの部下ですよ? 今日鈴川くんに私たちの仲が良いように見えると言われたんです。まずくないですか?」

「いや、このタンドリーチキンうまいよ」

「いえ、タンドリーチキンの話ではなくて」

「わかってる、鈴川のことね。へー、仲良く見えるのか、親密さはまだまだ足りないとは思うけどね」


呑気な返事をされて、ちょっとイラつく。私だけが焦っているみたいで、なんだか悔しい。「でも……」と呟いて、チキンを口に入れた。

あれこれ言っても、真剣に受け止めようとしてくれない。言うだけ、無駄なのかな?

そんなネガティブになりつつある私の心を征巳さんは、見透かしたようだった。

鈴川くんと同じくらい察しのいい人だ。こういう人に嘘を吐いたら、すぐにばれるんだろうな。

どうして嘘を吐くんだ! と、責める征巳さんを想像して、私は身を震わせた。彼もまた、怖そうだ。
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