嘘恋のち真実愛
現在32才である征巳さんは大学卒業後、オーエ不動産に入社した。跡取り息子ということもあり、さまざまな部署でいろんな経験を積んで、知識を身に付けていった。

29才になり、他の会社も見たほうがいいと父親から勧められ、トゴタンに出向。トゴタンにはまだ三年しか勤務していないのに、部長という役職を与えられているのは、親族というだけではなく彼の実力もあるに違いない。

実際、彼の下で働いてまだ二か月ではあるが、統率力のある人だと感じている。私と同じように感じている人が多く、短期間で信頼を得ている。

将来経営者になる人だとわかり、私とは違う世界の人だと思い知らせれた。さっさと婚約者役を終わらせて、元の生活に戻らなくては……。


しかし、まだ親密度を高めるためだと彼は、私に接近してきた。

征巳さんの両親と対面する日の前日の夜、やっとふたりでスーパーに行くことになる。彼は、楽しそうにかごを乗せたカートを押した。


「ゆりか、今夜はなに作るの?」

「なにが食べたいですか? 食べたいものを作りますよ」


彼のために作るのは、今夜が最後になる。
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