嘘恋のち真実愛
「おいしいね」

「はい、おいしくできましたね。何個でも食べれそう」

「またふたりで作りたいね」

「えっ? あの……」


私がこの部屋で夕食をとるのは、今夜が最後。また……と言われても、返す言葉につまる。

征巳さんはどういう意味で言ったのだろう?

詳しく彼の気持ちを聞こうと思ったが、「ところで」と話を切り替えられてしまった。「はい?」となんの話かと待つ。


「明日のことで確認だけど、俺のどこが好きかと聞かれて、どう答えるか決まった?」

「はい、一応……」


昨日も聞かれたが、まだ決まらなくて答えられなかった。ギリギリになったが、私なりに言うことをまとめた。

でも、本人の前で言うのは照れる。小さく咳払いをしてから、征巳さんを見据えた。


「征巳さんは一緒にお仕事をしていて、とても頼りになり、尊敬できる上司です。それと、お仕事とは関係ないのですが、私の料理を美味しいと笑顔で食べてくれて、いつも優しく気遣ってくれるところに惹かれました」

「ほお」


良いとも悪いとも言わない曖昧な返事に、不安になった。
< 110 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop