嘘恋のち真実愛
「ごめん、何を言おうとしたのか、何がしたかったのかわからない」


いつも自信ありそうな態度を見せる征巳さんが、ショボンと肩を落とす姿は珍しいというか、初めて見た。

私は、掴まれていないほうの手で、彼の手に触れる。


「思い出したら、教えてくださいね」

「はあーーー」


なぜか大きなため息を吐かれた。教えてくださいって、図々しかった?

ところが、予想に反して征巳さんは掴んでいた手に力を加えて、自分の方へと引っ張った。


「えっ? わっ、わわっ……す、すみません」


バランスを崩した私は、彼の胸の中に飛び込んだような形になる。咄嗟に離れようとするが、なぜか抱き寄せられた。

彼の手は私の背中に回されている。こんなに密着したら、激しく動く心臓の音が聞こえてしまう……。


「ゆりかも俺の背中に腕を回して」

「えっ……こうですか?」


より密着されて、彼の香りに包まれた私の頭はクラクラしそうになる。どうしよう……。


「今の俺たち、親密そうじゃない? 」

「はい……そうですね……」


ボーッとする頭で、今言われた言葉の意味を考えた。
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