嘘恋のち真実愛
そうか……これは新密度を高めるために彼が起こした行動だ。

つまり、この抱擁も親密に見せるためへと繋がる。冷静に考えたら、混乱してした心が静かになってきた。


「手放したくなくなる」


甘い言葉も新密度をあげるためのもの。征巳さんは私の体を少し離して、今度は頬に手を触れた。

じっと見つめられて、じっと見つめ返す。見つめあうふたりこそ、親密に見えるだろう。

自分からは逸らさないよう……漆黒の瞳に吸い込まれそうになりながらも見続けた。その瞳が徐々に近付いてくる。

彼の瞳の中に入ってしまいそうになるギリギリまで、接近されてもがんばって見つめ続ける。


「キスしていい?」


彼の声が私の鼻に触れる。こんなにも寄っていたんだ……。

あれ? 今何を言われた?

キス……キスって、唇と唇を重ねることよね?

それをしたい?

私は脳内をのんびりと混乱させてから、声を絞り出した


「ど、どうして」

「いや、ダメだよな……」


かなり接近した征巳さんは、私の肩を後ろへと押す。


「今言ったことは、忘れて」


見つめられた熱い瞳を忘れることはできなかった。だから、浅い眠りの中で、彼とキスする夢を見てしまった……。
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