嘘恋のち真実愛
私の返事が不満なのか、征巳さんは口をとがらせた。


「慣れるとかいう問題ではない。ゆりかは、冷たいな。元の生活に戻れるのがうれしい?」

「冷たいですか?」

「うん。俺を置いて出ていくんだろ?」

「置いて出ていくって……人聞きが悪い言い方ですよ」


今度は私が口をとがらせる。事実を言っただけなのに、どうして責められるのだろう。

婚約者役としての任務を無事遂行させるための、ふたり暮らしをした。征巳さんの両親に婚約者だと認めてもらえれば、もうこの奇妙な生活をする必要はない。

以前のように、上司と部下に戻ればいい。

身の丈に合わないマンションで数日だけでも暮らせたことは、貴重な経験だ。

特に素敵な庭を見ながらの朝食を気に入っていた。あのご飯を食べれないのだけが、寂しい。


「今日は土曜日ですが、いつもお休みの日の朝ごはんはどうしてますか?」

「休日の朝は、起きる時間がまちまちでね。食べたり、食べなかったりだけど、食べるときはだいたい下かな。お腹すいた?」

「少し」

「じゃあ、着替えて下に行こうか」
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