嘘恋のち真実愛
お父さんに注意され、お母さんは萎縮しながらも不満を口に出す。

私はどうしたらいいものかと、征巳さんを見た。彼は、まだなにか言いたげなお母さんに意志の強い眼差しを向けた。


「未央子さんには、ちゃんとお断りしました」

「でも、納得してなかったわよ」

「向こうが納得してくれなくても俺に気持ちがないなら、ダメでしょう? 違う?」

「征巳さんと未央子ちゃんなら、素敵な結婚ができると思ったのに」

「それは、母さんたちの勝手な要望であって、俺が求めているものではない。俺は、ゆりかしかいらない。どうしても認めないというなら、家も出るし、会社も継がない。ゆりかとふたりで生きていくから」


生きていく……一度しかない人生のパートナーに私も選んでくれる人がいるなんて……この気持ちが本物なら、私はかなり浮かれたに違いないだろう。

しかし……真実ではない。


「征巳の意志は固いようだな」

「ゆりかを絶対手放したくないからね」


お父さんに力強く返事をする彼は、とても頼もしく見える。一生付いていきますと言いたくなりそうなくらいだ。
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