嘘恋のち真実愛
これは嘘ではない。いつか結婚したら、海のきれいなところに行きたいと思っていたし、征巳さんのマンションはとても素敵なので、ずっと生活できるのが羨ましいと思った。


「ああ、そうだな。征巳のところならふたりでも快適に過ごせる広さだろう」

「そうね、いずれ子供が出来たら、引っ越してもいいわよね」

「孫、楽しみだな。ふたりの子なら、かわいいだろう」

「ええ、かわいいお洋服をいっぱい買ってあげたいわ」


お父さんとお母さんの弾む話は、どんどん膨らんでいった。

孫の話までされて、この会話にどう参加したらいいのか困惑し、助けを求めるべく征巳さんを見た。しかし、彼は楽しそうに話を聞いていた……。

嘘の話を喜んで、ここまで盛り上がってしまったことに、心は痛まないのかな?

いろいろ思うことはあるけれど、とりあえず婚約者役は成功した。

何か月か経ってから、別れたと征巳さんが告げるに違いない。そのとき、私は当然のことながら彼の隣にいない……。

そのときを待つまでもなく、今夜から私たちは別々になる。


「ねえ、ゆりかさん。……ゆりかさん?」

「ゆりか?」

「えっ? あ、はい! すみません、なんでしょう?」
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