嘘恋のち真実愛
レストランを出て、私たちは彼の両親と向き合っていた。彼がなにかを話していたが、聞いていなかったから呼ばれたのに、反応が遅くなった。


「今度征巳と、うちにも来てね」

「はい、ありがとうございます」


絶対に実行されない約束をした。しっかりと繋いでいる私たちの手をお母さんは見て、うれしそうな顔をした。

先に帰っていく彼の両親を見送ってから、私たちはタクシーに乗った。これから征巳さんのマンションに戻り、荷物を取って自分のマンションに戻る。

それで、婚約者役は終了となる。


「征巳さん、あの、手……」


タクシーに乗り、繋いでいた手を離そうとしたけれど、彼が強く握っているため、離せない。


「ん? ああ、マンション着くまでくらい、いいだろ? 眠い……少し眠らせて」

「えっ……」


眠いからとは理解しがたい理由ではあるが、征巳さんは目を閉じて私の肩にもたれた。手以外に密着する部分が増え、私の体は硬直する。

首にかかる彼の髪がくすぐったい。繋がっていないほうの手で、そっと彼の頬に触れる。男性にしては、きれいな肌をしている。羨ましいな……。
< 130 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop