嘘恋のち真実愛
しかし、冷たいとは心外だ。部下として、上司との距離感に気を使っているというのに。


「どうも、お世話になりました」

「ああ、こちらこそ」


征巳さんの部屋からキャリーバッグを転がしながら、エレベーターに向かう。あっさりではあるが、一応挨拶はした。

それなのに、なぜ付いてくるの?

私と一緒にエレベーターに乗る征巳さんの横顔をチラッと見る。無表情でドアを見つめていた、

どこかに行くのかな?と思ったが、私のマンションまで付いてきた。マンション前で足を止めると彼の足も止まる。

やはりどこかに用事があるのではなく、私のあとを追ってきたようだ。なぜ?


「まさ、あ、部長。なんのためにここまで来ました?」

「ん? ああ、送っただけ」

「送るというか、あと付けてきただけのような……」

「まあ、そうかな? じゃあ、気をつけて」


住むマンションの真ん前で、気をつけて言われても、なにを気をつけるのだろう。だれか潜んでいないかどうかとか?

いや、誰かいたらやばいけど……。
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