嘘恋のち真実愛
「一度は婚約者だった関係だ」

「えっ、でも、それは嘘の関係ですよ?」

「ひと部屋にしか空いてなかった。だから、同じ部屋で寝る」

「はい?」


まだ納得できない私に、静かに立った征巳さんは一瞥をくれた。

ひと部屋しか空いてないと言えばすむ話ではない。別のホテルに変えればいい話だ。

彼の冷ややかな視線に怯まず、私も立った。言いたいことだけ言って、話を終わりされたくない。


「勝手に決められても困ります。私の意見も聞いてください」

「却下する。ゆりかが喜ぶものを用意してあるから、すべて俺に従ってもらう」

「私が喜ぶもの? なんですか?」

「だから、当日の楽しみだと言っているだろ? ゆりかはただ楽しみにしていればいい」


本当に強引な人だ。私への褒美なら、どこでどういうことをするか教えてもらいたい。こんな意味不明な褒美なんて、いらない……。

しかし、その気持ちは伝えることができず、旅行当日の朝を迎えることになる。


近所に住んでいる私たちの待ち合わせ場所は、羽田空港だった。空港に着いたことを征巳さんに連絡し、今どこにいるのかを訊ねる。
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