嘘恋のち真実愛
私はひとりの人をそこまで長く想ったことがない。でも、征巳さんのことは、この命が尽きるまで想い続けるだろう。

征巳さんは未央子さんにハンカチを差し出したが、未央子さんは受け取らず、自分のハンカチで涙を拭った。

化粧が崩れても、きれいな人で瞳は澄んでいる。純粋に征巳さんだけを見てきた瞳だ。彼女は一度唇をぎゅっと結んでから、声を出した。


「今は祝福できないけど……いつか……」


その先に続く言葉は言えなく、口を閉じる。征巳さんは、心情を察したのか「うん」と頷いた。


「未央子さま、帰りましょうね」

「ええ、そうね……」


マンションの外へと動き出したふたりに、ホッと胸を撫で下ろす。征巳さんの手を握ってから、背後で見守っていたコンシェルジュの方たちに会釈した。

みんな複雑そうな表情をしている。私もいろんな気持ちが入り交じっていて、征巳さんに言うべき言葉が見つからない。

私たちは静かにエレベーターに乗り、部屋に入った。

リビングルームでようやく征巳さんが、喋る。


「嫌な気持ちにさせてしまって、ごめん」

「ううん、征巳さんはなにも悪くないから」
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