嘘恋のち真実愛
えっと、台詞はなんだっけ?

怯んでいる暇はない。言わなくちゃ!

さっきカフェでおさらいしたシナリオを必死に思い出す。そうだ、まず部長を呼ぶ……。

「ぶっ……」と怪しい音を口から出して、ハッと止まる。いけない! 部長と呼びそうになった。

すぐ近くで口を押さえる私を、女性が訝しげな目で見る。怪しいと思われても仕方がないけれど、ここで止まってどう続けたらいいのか……冷や汗が出てきた。

押さえた手の中で、口をパクパク動かす。ごめんなさい、間違えましたと。

女性は不審者を見るような目で私に一瞥してから「征巳さん、行きましょう」と部長の腕に手を添えた。

ああー、待って。行かれては困る。それに、一緒に行くのは私なの……。


「ま、待って。征巳! あの、その人、どちらさま?」


急いで引き止めた私を、また女性が見る。今度は、上から下までじっくりと挑むような目で見られた。

咄嗟に出た台詞はシナリオと違うし、ここから先はほぼアドリブとなる。でも、なにがなんでも部長を略奪しなくてはならないから、私も負けじと見つめ返す。

きれいな人の目力は怖いほど迫力あるけど、がんばる!
< 26 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop