嘘恋のち真実愛
ドアが閉まる直前の彼女の泣きそうな顔には、少し気の毒になったけれども安心した気持ちのほうが大きい。

ここまで来ればもう大丈夫。

ん? あれ?

レストランのある階は、三階だったからエレベーターは下降するものと思っていた。けれど、なぜか上昇している。

どこに行こうとしているのだろう。無言で彼を見上げると、予想外の答えを発した。


「部屋を取ってあるから」

「えっ、部屋? えっ、泊まるのですか?」

「婚約者なら泊まってもおかしくないだろ? 絶対に諦めてもらうためには、親密さを見せる必要があると思わない?」

「確かに必要だとは思いますけど……」


私は口をもごもごさせた。言いたいことはあるのに、ハッキリと言えない。

エレベーターは15階で止まった。部長に手を引かれて降り、コーナールームへ入る。ここでやっと手を離された。


「芦田さんさ」

「はい」


部長はスーツの上着脱ぎながら、ドア近くから動けないでいる私を横目で見た。ここまで付いてきてしまったけど、この先どうしたらいいかわからなかった。


「言いたいことは言うようにと言ったよね?」

「はい……」

「それにここは会社ではない。もっと本来のゆりかを見せて」

「えっ?」
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