嘘恋のち真実愛
未央子さんから離れたのにまだ私を『ゆりか』と、呼ぶ……。

それに本来の私を見せろと?

彼女役から婚約者役に昇格はしたけれど、あくまでも役であって、偽りの婚約者だ。偽りの婚約者なのだから、本来の姿を見せる必要はないはず……。


「もっと君を知りたいんだけど」

「それは、部下としてですよね? 会社を離れたらプライベートのことは聞かないでください」

「なるほど……本来の自分を見せたくないというわけか」

「そ、そうです。今日の任務は無事終わったので、私は帰らせてもらいます」


部長が少しずつこっちに歩み寄ってきていたから、私は少しずつ後退していた。任務が終わったら、距離をあけるべき。

上司と部下の距離は、近くないほうがいい。くるりとドアに体を向けて、ドアノブに手をかける。


「待って」

「……っつ、離してください」


後ろから部長に抱き締められて、思わず息を呑んだが、拘束された腕を離そうともがく。部長の力が強くて、少ししかもがけなかったけれど。


「まだ終わってない」

「終わりましたよね?」

「今下に行ったら、まだ未央子ちゃんがいると思う。彼女はしつこいから」
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