嘘恋のち真実愛
私は、シートベルトをしめながら、ポツリと呟いた。

「傘あるのに……」


今日も外は雨だった。

昨日は傘がないから、車に乗せてもらった。しかし、昨夜傘を自分の部屋から持ってきたので、今日はある。

それなのに、「いいから乗って」と強引に乗せられた。


「傘は帰りに使って。できることなら帰りも一緒に帰りたいけど、今日も遅くなりそうだから。ごめんね、買い物行けなくて」

「いえ、平気です。いつも買い物はひとりでしてますし、征巳さんはお仕事が忙しいのですから、気にしないでください」

「ゆりかは優しいな。でも、俺たちさ、なかなか親密度があがらないよね」

「あー、そうですね」


同じベッドで寝ても、私たちの距離感は昨日と変わらない感じだ。このままの状態で征巳さんの両親に会うのは危険。


「どうしたらいいと思う?」

「んー、とうしたらいいのでしょう?」


聞かれても対策がなにも浮かばなくて、逆に聞いてしまう。征巳さんは、困った顔で嗤いながら、車を発進させた。

ここで止まっている時間はない。
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