嘘恋のち真実愛
「例えば、こんなふうに近付いて……」


征巳さんが私の方に顔をよせる……ドクドクと心臓が急速に動き出す。

やばい、スカイツリーに行ったときのようになるかもしれない。車の中とはいえ、ここは会社だ。

ここで倒れたら、征巳さんに迷惑がかかる。どうしよう、そうだ!


「うわっ! ちょっと、ゆりか……なにするの?」


目まいを感じる前に私がとった行動は、近付く顔を制止することだった。両手で彼の顔を覆った。

慌てふためく征巳さんがおかしくて、失礼ながらも笑いがもれる。


「まったくひどいな、ゆりかは……覚悟してよ」

「えっ、な、なに?」


征巳さんは私の手首を掴んで、自分の顔から離し、その手を私の頭上へとかかげた。無防備な体勢になってしまい、目を見開いた。

彼は意地悪そうに片方の口角をあげて、笑う。覚悟、できません……。


「こんなところでするつもりはなかったけど、ゆりかが悪い」

「えっ……」


息を呑んだ瞬間、唇が重なった。これって、もしかして、いや、もしかしなくてもキス?
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