嘘恋のち真実愛
もしかしたらキスをされるかもと彼の顔を制止したのに、なぜされているの?

呆然とする私を置いて、触れるだけのキスをした征巳さんは車を降りた。それから、助手席のほうへ回り、私の横のドアを開ける。

まだ微動だにせずの私の手首を掴む征巳さんの頬は、気のせいかほんのり赤みがさしているように見えた。


「ゆりか、降りて。行くよ」

「あっ、は、はい!」


大股で歩く彼に小走りでついていく。いつもは私の歩幅に合わせてくれているのに……今日は、どうしたのだろう?

突然のキスに戸惑うのは私のほうなのに、なぜか征巳さんが動揺しているみたいだ。彼の顔をもっとよく見たい。

エレベーター内はふたりだけだったから、彼の顔を凝視した。やはり赤くなっている。


「見るな……」

「だって……照れているんですか? 自分からしたくせに」

「するつもりはなかったと言っただろ? ゆりかのせいだから」

「なんで私?」


征巳さんからキスしたというのに、私のせいだと言われるのは理不尽だ。なにも悪いことはしていない。

それどころか、止めたのに……。
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