ありったけの愛を叫んで
しばらく泣いて落ち着いてきた私に声をかけた恩人
「お前、一生怖くて海入れねーだろうな」
そう言って少し口角を上げるその顔を見て目が見開く
「か、神野くん…」
物覚えの悪い私が、今日1度聞いたきりのなまえを覚えていたのは彼の印象が余程強かったからなのか…
「気づくのおせーよ」
私の命の恩人は、隣の席の不良くんだった
見られた。最悪だ…
なんだか、これから毎日顔を合わせるだろうクラスメイト、しかも隣の席の人に
こんなに情けない姿を見せたあげく大泣きしたさっきの一部始終を思い出して
猛烈にはずかしくなってうつむく
その視線の先には青紫色の私の手
…そういえば寒い!!
思い出したかのようにブルブルと体が震えはじめた
神野くんは、はぁ、とため息をついたあと
砂浜に脱ぎ捨ててあった彼のブレザーを私の肩にバサッとかけた
そしてブレザーの中に入っていたおかげで水没するのをまぬがれた携帯で、どこかへ電話をかけ始める
その電話越しから聞こえてくるは、こっちにまで聞こえる男子の怒った声
たぶん神野くんは怒られているはずなのにめんどくさそうに顔を歪ませ、
「うっせぇ 海」
とだけ言って電話を切った