ありったけの愛を叫んで
「へっくしゅん!!」
女子とは思えないほど大きめな声で盛大なくしゃみをした私
「こんなさみー中海なんか入るからそうなるんだぞ」
私と同じでびしょびしょなくせに全く寒そうにしていない神野くんは、面倒くさそうに眉をひそめながらも私の肩をさすってくれる
表情は怖いし言ってる事もきついけど、案外優しい人だったりする…?
それからすぐに、1台のバイクの音がこの辺りでとまった
浜辺に走って降りてきたのは、神野くんとも私とも同じ制服を着た茶髪男
「おい朔夜(さくや)!
急にいなくなったらびっくりすんだろ!」
そう叫びながら走ってきて見えた顔は中性的で綺麗、叫んでいなければきっと絵本の中の王子様
そして近づくとわかる、男子らしい高い身長とすっとしたスタイル
「なんでそんなびしょびしょなんだよ!
ってかこの子!!」
ピシッと指をさされて目が合った
この人、人に指さしちゃダメって小さい頃教わらなかったのかな…
「噂の転校生じゃん!!」
ウワサ、うわさ、噂…
今日1日で、何か噂になるほどのやらかしをしてしまっただろうか、、、
「あー寒いよね、ちょっとまってね」
茶髪くんまで自分のブレザーを脱いで、ガクガクと震える私の膝の上にかけてくれる
そしてどこかへ電話を済ませ、
「立てる?」 とか 「ゆっくりでいいよ」 とか
優しい言葉をかけながら手をひいて歩く紳士な茶髪くんを見て、
こっちが本当の彼で、さっきのはそうとう取り乱していたんだろうと 叫ぶ彼を思い出す
この人と神野くんは一体どんな関係なのだろうか…
二人をチラチラと盗み見る
神野くんは髪色は黒だけど、着崩した感じの制服といい、耳に光るピアスといい、まとう空気がまさに不良
一方茶髪くんは歩きながらたまに私をふりかえってニコリと笑って、その笑顔は本当に爽やか
二人の雰囲気は全く正反対過ぎて、見当もつかない……
「朔夜が人助けなんて珍しーな」
と何故かにやにやする茶髪くんに、
「うるせぇ」
だるそうに返した神野くん
すごく面倒くさそうに神野くんは話すけれど、なんとなく二人は、きっと仲良しなんだと思う
浜辺から階段をあがって道路に出た頃、私たちの前に滑るようにしてとまったのは
黒塗り、フルスモークの高級車
ピカピカの車の中から、頭もピカピカ、スキンヘッドのサングラスをかけたオジサンが出てきて後部座席のドアを開ける
これは絶対、
絶対危険な車だ…
固まった私のことは完全に無視で、
スキンヘッドのオジサンからタオルを受け取って車に乗り込む神野くん
その様子はスマートすぎて、映画のワンシーンを見ているみたいだった
なぜか私もフッカフカのタオルを渡されて、茶髪くんに強制的に車に押し込まれる
訳が分からずタオルを見つめる私に、前の席から顔を出した茶髪くんが声をかけた