偽りの愛で、永遠の愛を誓います

俺と結婚してくれ

｢お前は何度言ったら分かるんだ！｣

｢すみません…｣

｢もういい、今日は帰れ｣

｢はい…｣

仕事で失敗をし、上司にこっぴどく叱られた私は、みんなの笑い者。

うちの会社は大手企業だから、取り引き件数やお客様への対応で私たちの評価が決まる。

｢はぁ…この仕事、私には向いてないのかな…｣

そんなことを呟きながら、私はキラキラと輝く東京の街を歩く。

私は、今務めている企業に就職したくて、二年前に上京した。

親や親戚からは上京することを反対されたが、私の夢を叶えるにはこの企業しかなかった。

みんなの反対を押し切って上京したものの、田舎者の私はみんなに馴染めなかった。

ファッションやメイクを馬鹿にされ、挙句の果てには仕事の邪魔をされる始末。

どんなに成績を残したって、先輩や同僚に潰される。

私が成立させた取り引きも、全て他の人の成績になる。

もっとしっかりした職場だと思ったのに。

しばらく歩いて、家から近いコンビニに立ち寄り、夕食を購入する。

最近では、料理をする気にもなれなかった。

上京してきた頃は彼氏もいて、それなりに料理も作っていた。

しかし、私の仕事が原因で彼氏に振られ、その日を境にあまり自炊をしなくなった。

コンビニでおにぎりとサラダを買い、店を出る。

少し冷たい風が、心地良い。

｢ありがとうございましたー｣

そんな店員の声を背に、私は再び歩き始めた。もうすぐ家に着くという時、私は男の人にぶつかった。

男の人は不機嫌そうに私を睨みつけている。

｢あのっ、すみません…！｣

｢突然で申し訳ないが、俺と結婚してくれ｣

｢はい…え？｣

｢聞こえなかったのか？俺と、結婚してくれ｣

突然のプロポーズに、時が止まる。

何が起きているのか瞬時に理解出来ず戸惑っていると、彼は起き上がって私の手を掴んで歩き始めた。

家とは真逆の方向に引っ張られ、私は思い切って彼に声をかけた。

｢あのっ…！｣

｢うるさい、ちょっと黙ってろ｣

そう言われてしまい、何も言えなくなった私は彼について行くしかなかった。

しばらく歩いて連れて来られたのは、私が勤務する会社。

彼はそのまま、最上階にある社長室に向かった。

｢お前、彼氏は？｣

｢いませんけど…｣

そう言うと、彼は唇に弧を描いた。

その笑顔が不気味で、私は思わず目をそらす。

すると、ドアがノックされて眼鏡をかけた男の人が入ってきた。

｢社長、こちらの方と結婚なさるんですか？｣

｢あぁ。夜分遅くに呼び出してすまなかったな｣

社長とか結婚とか、一体なんの話をしているのか、私にはさっぱり分からない。

そもそも、私はこの人と結婚するって決めたわけじゃない。

名前も知らない人と結婚なんか出来るわけない。