偽りの愛で、永遠の愛を誓います
蒼弥side

どうやったら琴葉の心を動かせるのか必死に考えていると、お風呂場から琴葉の悲鳴が聞こえた。

何があったのかと思って急いでお風呂場に駆けつけて、ドアをノックする。

コンコン。

琴葉からの返事はない。

もしかしたら、倒れてしまったのかもしれない。

手遅れだったらどうしよう。

「琴葉、ごめん!」

そう断って、俺はお風呂場のドアを開けた。

俺の予想通り、琴葉は顔を真っ赤にして倒れていた。

のぼせただけかもしれないが、とりあえずベッドに寝かせないと!

琴葉を抱き上げ、俺は寝室に走った。

そして、ゆっくりとベッドに下ろしミネラルウォーターや保冷剤を取りに行く。

必要なものを手に寝室に戻ると、琴葉はまだぐったりとしていた。

とりあえず、保冷剤をタオルで包み首の下と脇の下に置いてあげるとちょっとずつ顔の火照りが取れてきた。

「んっ…」

「琴葉、起きた?」

「蒼弥さん…?」

「お風呂で悲鳴が聞こえたら行ってみたら、琴葉の悲鳴が聞こえてね。裸を見てしまってすまない」

「助けてくれて…ありがとうございます…」

裸を見た事に対して怒られるかと思ったが、琴葉はそこには触れなかった。

「あの…結婚の件なんですけど…」

「結婚する気になってくれた?」

「いえ…」

「じゃあ、また断られるの?」

「もし蒼弥さんが良かったらの話なんですけど、偽りの夫婦を演じませんか?」

琴葉からの提案に、俺は思考回路が停止した。

偽りの夫婦なんて、某ドラマのあの2人みたいじゃないか。

「結婚式、入籍はします。でも、寝室は分けて欲しいです。それと、表では夫婦ですが裏では違うので、気を使わなくていいです」

「ちょっと待って。俺には、琴葉が言っていることを理解できないんだけど」

「そのままの意味です。私たちの偽物の愛情で、永遠の愛を誓いましょう」

「すまない…ちょっと1人にしてくれ…」

正直、俺の頭の中はパニックを起こしていた。

琴葉は平然とあんなことを言ってのけたけど、納得出来るわけがない。

偽りの愛を誓ったって何の意味もないし、幸せもない。

だから俺は、琴葉が言っていることを実行に移そうとは思わなかった。

考えたって仕方ないことなのかもしれないが、考えずにはいられない。

「はぁー…」

俺は、大きく溜め息をついてベッドに横になった。

偽りの結婚なんて、絶対に認めない。

いつか絶対、琴葉のことを振り向かせてみせる。

俺は心に固く誓って、夢の世界へと入り込んだ。
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