へたれアイドル卒業します アミュ恋1曲目
とりあえず、校門を通り過ぎよう。
珀斗くんが俺に気づかなかったら
ラッキーと思ってそのまま帰っちゃおう。
そんな情けないことが
頭の中でグルグル。
女子たちの色づいた高い声が
だんだん大きくなり、
綿菓子並みに膨らんだ女の子たちの輪を
足早に通り過ぎようとしたとき
「やっと出てきたし」
聞き覚えのある低い声が
俺の耳に入ってきてしまった。
恐る恐る
振り返る。
「雅、遅すぎ。
どんだけ俺をまたせんだよ」
恋人か!
他の高校に通う恋人が
校門に迎えに来たみたいな言い方
してるけど。
約束なんてしてないからね!
「雅くんのお友達?」
「イケメンすぎ! 紹介して!」
今度は俺に言い寄る女の子たちに
一応、アイドルスマイルをキープ。
でも今の俺、心にそんな余裕ないよ。
この作り笑顔だって
そろそろ剥がれ落ちそうなんだから。
四方八方からの女の子たちの声に
とりあえず笑ってごまかしていると、
珀斗くんの男らしい声が
さらに女の子たちのハートを
キュンキュンさせた。
「雅、バイクの後ろ、乗れよ!」
バイクに乗れって……
俺をどこに連れて行く気?
明梨ちゃんのことで
俺に怒っているとかだったら。
サスペンスドラマの定番…… 崖の上?
突き落とされる?
いやいや。
珀斗くんって怖そうに見えて
実は優しいとこあるし。
この前だって
珀斗くんの家に泊まりに行ったとき。
俺のファンだっていう
珀斗くんのお母さんが、
俺から1時間離れなかったけど。
最後には引き離してくれたし。
って……
1時間は面白がって
ほっとかれていたっけ……
あれ、優しかったって
言えないよね?
そんなどうでもいいことを考えていた
俺にしびれを切らし、
無理やり俺の腕を引っ張った珀斗くんが
「早く乗れ!」と一喝。
「イケメン二人~」
「絵になるよね~」と、
女子たちのうっとり声に
判断を急かされる俺の脳。
とりあえず
この場からは逃げたほうがいいよね?
この判断が正解なのか不安なまま
俺は珀斗くんのバイクの後ろに
またがった。