忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~


 貼り付けられた表情は見るからに温度を感じさせない、女子に愛想を振り撒くような胡散臭さで、即座に一線引かれた事を悟る。

 確かに、この突拍子のない言動は第三者から見たら「子供じみた理由で先輩に詰め寄る変人」扱いされそうなシチュエーションで距離を置かれて当然と思うかも知れないが、切り札を(かたく)なに拒絶された私はもう、確信を持ちながらも納得させられるだけの材料は他に無いのだ。悠長な事を言ってられない。

 折角再会したのに、今を逃したらきっと「初恋の人かも知れないので観察させて下さい」と言う本音を隠しながらそれとなく近付いてみる、的な策も出来ない。対面してしまった以上、反応を見てもこれから避けられるのがオチだろう。

「残念だったね。……さ、そろそろ帰ろうか。俺もさっき連絡くれた人と約束があるんだ」

 短時間で巡るまじく頭をフル回転させていたら、無言を貫く私を見て諦めたと判断したらしい。先程のスマホを軽く横に振って告げた途端、彼はあっという間に手早く上着を羽織り、帰宅準備を始める。

 どうする、どうする……。

 今朝の答辞以上にどくどくと鼓動が跳ねるのを感じながら、発する言葉もろくに浮かばないまま、反射的にグッとシャツの袖を引っ張った。

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