忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~
「ん? どうした?」
こちらに目を向ける事なく返される、淡々とした言葉。
天真爛漫さは消え、何故だか軽薄男に変貌している上に、私の事を忘れているし、他人に見せる作り物の笑顔は小さい頃に出会った「男の子」には決して無かった。
けれど、これでもかという位、本能の声が私を引き寄せて止まない。
「……ねぇ、ハルくん」
焦る衝動を抑えてか細く声を漏らすと、律儀にネクタイを結び直していた指先が、驚く程の速さでピタリと静止した。
「あ〜……あのさ、気になってたんだけど、君、多分新入生だよね? 思い出の人に似てるとは言え、流石にいきなり上級生に馴れ馴れしいのは、良くないんじゃないかな」
『君』と言う他人行儀な呼び名に、ずきりと胸が痛んだ。でも突き放した口調とは裏腹に、窘めるようにそっと頭を撫でる手付きが優しい。
ちぐはぐだ、と思った。
何で否定するのか、本当に忘れてしまったのか、他の女子にも普段からこんな接し方なのか、あの時どうして突然居なくなってしまったのか――湧き上がる疑問が脳内でせめぎ合う。
今目の前に佇む彼が、まるでそこに存在していないような感覚。
真意が分からず、今度こそ泣きたい気分だった。