忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~
刻々と茜色に染まる空が、神秘的な美しさを放っている。実際は聞こえもしないのに、心無しか鴉が鳴いている気がした。
「ついてない……」
溜息を堪えつつ、ぼんやりした意識を振り払う。
窓から視線を外してみると、室内は見慣れた景色が広がっていた。白を基調とした日当たりの良い空間で、隙間から覗く医療品だらけの戸棚が現在地を物語っている。
この独特な清涼な香りは苦手な人が多いけど、心を落ち着かせてくれるから私は嫌いじゃない。
叶う事ならもう少し現実逃避していたかったのに、揺らめく橙色の影が嫌でも現実を突き付けて来て、心穏やかでは居られなかった。
私は今の状況を、目覚めた瞬間からある程度察している。こう言うシチュエーションは初めてではないからだ。
ただ、今回に限ってはそれはもう、校庭から飛んで来る様々な運動部の掛け声を恨めしく呪う程、ショッキングな出来事だった。
何故なら今日は、待ちに待った高校の入学式だったからだ。