忘却ラブシック ~あまのじゃくな君には騙されません~
新入生代表として任された入学式での答辞、見せ場を逃した卸したての制服、初日の友達作り……たかが貧血で全てを失うなんて、何てこと……。
「昨日ぐっすり寝て、朝ご飯も完食して、何から何まで準備万端だったのに、まさか肝心の薬を飲み忘れるとか……」
我ながら信じられない失態に嘆息する。
周りに植え付けてしまった第一印象と、恐らく既に今日の出来事を知った両親に何て言い訳しよう。
覚えている限り、確か最後の記憶は体育館の舞台袖だ。つまり、直前で倒れたならまだしも、答辞中に意識を失った可能性もある。
あんな大勢の前で……インパクト強過ぎる。
正直、私は虚弱体質だ。
ちょっとした運動で熱を出したりしていた幼少時よりマシにはなったけれど、今でも何か大きな行事で気を抜いたり精神的疲労が重なったりすると、直ぐに体調を崩してしまう。
だから勿論、今日だって万全の状態で式に臨んだ筈なのに……神様とやらは無駄に試練を与えて来る。理不尽だ。
と、余りの非情な結末にシーツを被って悶えていた時だった。
「――ん……」
不意に何の前触れも無く、静寂が破られた。