俺から逃げられると思うなよ
「……悪かったな」



ぽん、と頭に手が置かれる。

目をこすっていた腕をはずすと。

涼が穏やかに微笑んでいた。


涼って……。

こんなにきれいに笑えるのか。


思わず見とれてしまう。



「……蓮も。悪かったな」

「ほんとだよ。……涼も茜も家、飛び出して」

「穂村が?」



涼が私に目を向ける。



「そうだよ。繁華街で見つけた」

「繁華街でか!?」



神崎くんの言葉に驚く涼。

そんなに驚くこと?



「なんでそんな危ないところに行ったんだよ!?」



涼を探しに行った。


とは、なんとなく言えなくて、言葉を濁していると。



「お前を探しに行ったんだよ」



神崎くんが思っていることを代弁してくれる。

神崎くんを見れば、涼を思い切り睨んでいて。

私から見ても、怖いと思ってしまった。



「危ない目にあったんだから」

「……危ない目?」

「男にどこかへ連れ込まれそうだった」



神崎くんが言っていることは事実だけど。

その言葉は、涼を追い詰めてしまうんじゃないかと思った。


何も言わない涼を睨み続ける神崎くん。
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