俺から逃げられると思うなよ
「うん。もう大丈夫」

「そうか」



涼の手が離れる。

少し寂しい、って思ってしまうのはきっと気のせい。


紛らわすように、話題を変える。



「そ、そういえば! 保健室の先生は?」

「職員会議でいない」

「そ、そっかぁ」



いないんだ。

じゃあ。



「保健室に2人きりだな」



やっぱりそうですよね。

他の生徒が居る気配が全くなかったから。

涼と2人きりなんて、家でも沢山あるのに。

なぜか、心臓がドキドキする。

暑さのせいなのかな?


ひとりで納得しようとしていると。

涼の手が、私の頬にそっと触れる。

ドキッと、心臓が跳ね上がる。

顔に熱が集中しているのも分かる。



「顔、赤いぞ」



否定も肯定も出来なかったので、私があたふたしていると。

涼は意地悪な笑みを浮かべた。



「俺と2人きりで意識してる……、とか?」

「そんなっ、わけ!」



そんなわけがない。

涼がきれいに微笑んでいようとも。

その手が優しくても。

距離が近くても。



「ドキドキ、なんてしてないからっ」



私の言葉に涼は真剣な表情になる。

その真剣な瞳に吸い込まれそうになるよ。
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