俺から逃げられると思うなよ
「穂村……、茜?」



朝比奈さんが小さく呟く。

一瞬真顔になった彼女は、すぐに明るい表情を取り戻した。


そして私に言う。



「もしかして……、西高の生徒だったっ!?」

「っ、」



私のこと、知っているんだ……。

そう思うと、体が震え始める。



「知り合いなのか?」



涼が私に聞くけど、答えることが出来ない。

そんな私の代わりに答える朝比奈さん。



「穂村さん、西高で有名だったんだよー」



有名。


そんな言葉、全然嬉しくない。

私は耐えられなくなって、涼の手を引っ張る。



「涼、帰ろう」

「お前、水着は?」

「いい」



買わないで帰ろうとすると、朝比奈さんが口を挟む。



「穂村さん、水着を買いに来たの?」

「……まあ、」

「じゃあ、私と一緒に選ぼうよ!」



朝比奈さんは私の手を取る。


触らないで。


そう、言葉にしたかったけど、言葉にはならず。

涼にも『行ってこい』なんて言われてしまって、頷くしかなかった。
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