俺から逃げられると思うなよ
ひとりで家までの道を歩いていると、突然腕を引っ張られる。

バランスを崩しそうになった私を支えてくれたのは。



「涼……」

「お前! なにやってんだよ!」



涼は私の腕を掴んだまま、言葉を続ける。



「ひとりで帰ってどうすんだよ」

「ごめん」



涼は私の腕から手を離す。


そして。

私を抱きしめた。

それは一瞬のことで。

何が起こったのか分からなかった。



「お前、水着買ってねぇじゃん」

「……」

「明日、海、行くんだろ?」



涼の声は優しくて。

私を泣かせるには充分だった。


精神的に限界だったものが、彼のおかげで解きほぐされる。


私には、涼も、神崎くんも千秋くんもいる。

海に一緒に行ってくれる友達がいるんだ、と思うと泣けてきた。


私は涼の腕の中で何度も頷く。


海、みんなで行きたいよ。
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