俺から逃げられると思うなよ
「なに泣いてんだ、バカ」



優しく頭を撫でてくれる涼。



「水着、まだ買ってねぇんだろ? 店閉まるから、早く戻るぞ」



涼の腕の中で頷くと。

涼は抱きしめていた手を離し、私の手を握る。



「戻るか」

「……うん」



私の手を引っ張るように歩く涼。

その後姿が、いつもより頼もしく思えた。



「涼……」

「ん?」

「朝比奈さんは?」



私が問いかけると、涼はなんてことないように答える。



「邪魔だから帰した」

「そっか」



その言葉に安堵した私がいた。

朝比奈さんがショッピングモールにいない、と思うだけで心が軽くなった。


再び水着コーナーに戻る私たち。



「時間ねぇから、早くしろ」



涼はそう言うけれど、水着って選ぶのに時間がかかるんだからね?

試着もしなきゃいけないし。


私が反論する前に、涼が先に口を開く。



「5分で買え」

「ええっ」

「早く帰らねぇと、明日の準備が遅くなる」



涼の顔は本気そのものだったので、私はあわてて水着を物色する。
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