俺から逃げられると思うなよ
私はブレザーを掴んだまま、深呼吸をする。


……落ち着け、私。

冷静になるんだ。

ちゃんと話し合わないと。



「あんたの考えていることなんて、分かんないけど」



立ち止まってくれたヤンキーくん。

私の手を振り払うことだって出来るのに。

振り払わないで、背中を向けたままのヤンキーくん。


そんな彼は。



「思っていることはちゃんと伝えなきゃ、分かんないよ?」



きっと、不器用なだけなんだ。


ヤンキーくんが振り返り、私の目を見る。

私もヤンキーくんの目を見返す。



「俺は、」



その目は、揺らいでいて。

さっきまでの不機嫌そうな表情も消えていて。

その姿を見たら、私の怒りも消えていた。



「女が嫌いだ」



呟いたヤンキーくんは、なぜか切なそうだった。
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