俺から逃げられると思うなよ
涼は、自分の過去を話すことに、どれだけ勇気を出したか。

それは、想像だけじゃ分からない。

涼じゃないと分からない。


ふと、空を見上げると、いつの間にか星が輝いていた。



「涼」

「ん?」

「星がきれいだね」



隣に座っている涼が少し驚いた様子で私を見る。



「こうやって、涼と話すことって今までなかったよね」



なにかを話したいわけでもない。

涼になにかを伝えたいわけでもない。

今は、“涼”という人間を知ることが出来て嬉しい。



「話してくれて、ありがとうね」

「……ああ」



涼に微笑みかけると、涼は私から目線をはずし、空を見上げる。

私もつられて、空を見上げる。



「星、きれいだな」

「うん」



会話も笑いもない、この時間。


だけど。



「安心するね」



この沈黙さえ、今は心地が良い。
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