俺から逃げられると思うなよ
「行くよ」



私は、扉をノックする。



「入って来なさい」



低い声が扉の向こうから聞こえる。

この声はきっと神崎くんのお父さんの声だよね。

私たちは顔を見合わせてから、最後の覚悟を決めた。


ドアノブに手をかけ、ゆっくりドアを開ける。



「失礼します」



私たちは社長室に入る。

社長室の中の空気は重苦しかった。

神崎くんとお父さんが、どんな話をしていたのか分からないけれど、決して明るい雰囲気ではなかった。



「茜……。涼、千秋も」



ソファに座っていた神崎くんが立ち上がる。

驚きを隠せていない神崎くんとは対照的に、冷静で表情が読み取れない神崎くんのお父さん。



「なんで、ここに……」



神崎くんの言葉は、戸惑いを隠しきれていなかった。



「受付嬢から聞いたよ。……私は急がしいんだ。話すなら手短に頼むよ」



神崎くんのお父さんがソファに座ったまま、私たちを冷めた目で見る。


私が話したいと思ったこと。

それは、ルームシェアを続けるために神崎くんの将来を決めないで欲しい、ということ。



私は震えを隠しながら、口を開く。
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