俺から逃げられると思うなよ
「……あなたは」



私の中の、怒りの感情が止まらない。

冷静な怒りほど、怖いものはないと思った。



「何も分かっていない」

「なんだと?」



社長が眉間にシワを寄せた。

プライドを傷つけてしまったかもしれない。


だけど、そう思ったから。



「ここには、数え切れないほどの社員さんが働いていると思います。その社員さんが居てこそ、あなたは社長という座に立っているわけです」

「だったら、なんだ」


「神崎不動産が、大きく事業展開が出来ているのはなぜだと思いますか?」

「優秀な人間を選んでいるからだ」



社長の言葉には淡々としている。


『優秀な人間を選ぶ』


社長の言葉に、悲しくなる。



「……私は、そうは思いません」



少しでも聞いて欲しい、伝わって欲しい。


その一心で言葉を続けた。

 
「神崎社長が、社員さんからの信頼を得ているからだと思います」



しん、とした社長室の中、私の声だけが響く。
< 232 / 276 >

この作品をシェア

pagetop