俺から逃げられると思うなよ
「神崎くんも、あなたの背中をしっかり見ていると思います。“神崎社長”の姿を見て、自然と後継者になりたいと願う日が訪れることを、信じてあげるのはどうでしょうか?」



神崎社長の視線が、私から神崎くんに移る。

神崎くんも、社長の目をしっかり見ている。



「蓮は、私のひとり息子だ。後継者になって欲しいと思うのも事実だ」

「俺は……。今すぐに“後継者”とか、分からない」



神崎社長の思い。

神崎くんの思い。


2人の言葉を、私たちは黙って聞く。



「家族より仕事優先をする父さんが好きじゃなかった」

「そうか……」

「だから、俺が継ぐ日が来たら。家族も仕事も大切に出来る人間になる」



神崎くんの本音を初めて聞いたのは、私だけじゃない。

ここにいる全員だと思う。
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